2021.10.31 22:00【原発事故】(仕事場D・A・N通信vol.50) 福島に通うようになって十年が過ぎた。だが放射能汚染問題や原発事故被害について、それほど詳しくなったわけではない。専門家に対抗するような知識を手に入れようとはしてこなかった。通い続けたのも、たまたまの巡り合わせが私の人生にやってきただけだ。基本的には、世の中のあらゆることに多くの...
2021.10.25 11:41【父を迎えに】(仕事場D・A・N通信vol.49)「雨・・・、迎えに行ったのに」の漫画の台詞から、長い間思い出したこともなかった情景が蘇った。六十五年以上も前、私が小学校3、4年生になった頃からのことだ。夕刻、雨が降り出すと、「お父さん、駅まで迎えに行ってきて」と母に言いつけられた。それまでは母も一緒に雨の中を出かけ、駅で父の降...
2021.10.18 03:12【死】(仕事場D・A・N通信vol.48)「死」について深く考えたことなどなかった。一年前、配偶者の死に直面した時も、その後も、あまり考えたとは言えない。ずっと若い頃、思春期に「死」を考えたことのない人は文学性が足りないのだと聞かされた。そうなのか・・・と思ったが、だからといって考えることはなかった。 四十代、五十代の働...
2021.10.10 23:50【徹夜の一夜漬け】(仕事場D・A・N通信vol.47) 新書を読んでいて、久しぶりに「一夜漬け」という言葉を目にした。この習慣が学校教育の中間・期末テストへの対策として、皆が身につけたものだという。たしかに日常生活の中で、一夜漬けなんて不誠実な対応をすることは少ない。あっ、食べ物のことじゃないよ。 私はここ十年余、季刊web雑誌「対...
2021.10.03 23:58【おひとり様】(仕事場D・A・N通信vol.46) いつ頃から目にすることが多くなった言葉だろう。一人暮らしは新たに誕生したわけではない。「おひとり様」と称することで、一人暮らしは侘しい、寂しいと決めつけられるのに対抗したのだろう。 結婚していれば孤独じゃないとか、子どもを産んでいれば幸せという押しつけにウンザリさせられてきたか...
2021.09.27 02:27【ルンバは偉い】(仕事場D・A・N通信vol.45) 変な感覚なのか、誰もがそうなのかは分からない。しかし以前、一週間レンタルのお掃除ロボットが届いたときにも同じことがあった。 「ルンバ」、買おうかなと何度も思った。でも普段、掃除なんかしない。ホコリで死ぬことはないという主義の夫婦だったので、そんな家に暮らしていた。 たまに孫達が...
2021.09.20 23:48【西瓜】(仕事場D・A・N通信vol.44) 一人暮らしになって、ちょっと季節っぽいニュアンスのある出来事が減った気がする。たとえば西瓜を食べること。一玉はとてもではないけど、半分にしても、四分の一にしても、マイカーに乗らない私には、持ち帰りの難儀な、かさばる食品だ。それに食べないからといって困るものではない。 とはいえ、...
2021.09.05 23:01【イラストレーター】(仕事場D・A・N通信vol.43) 10代の終り頃、イラストレーターになりたいと思っていた。名前がかっこいいと思ったし、漫画家より簡単なような気がした。その関連でレタリングというものも通信教育を受けた。今ならいろんなフォント・書体がPCで引っ張り出せるが、当時はポスターでもチラシでも、大きな文字は手描きだった。書...
2021.08.29 23:33【アドリア海沿岸】(仕事場D・A・N通信vol.42) アドリア海を地図で見るとイタリア半島の右側。長靴のかかと側に入り込んだ内海である。一番奥にはヴェネチアがある。イタリアの対岸はほぼクロアチアで、昔、ユーゴスラヴィアと呼ばれ、チトーが率いる連邦国家があった。 強力なリーダーの死後、独立、内戦が激化し、結果的にスロベニア、クロアチ...
2021.08.22 22:16【金門橋サイクリング】(仕事場D・A・N通信vol.41) 坂道とケーブルカーで有名なサンフランシスコ。アメリカ西海岸は早くに海外旅行ブームの来た場所だ。だが私達が出かけたのは随分後になってからだった。ハワイや西海岸に、いわれのない抵抗があったのだ。 出かけてみれば、移動もし易い、こじんまりした印象のアメリカっぽくない街だった。起伏の激...
2021.08.16 00:40【ジャーマンレイルパス】(仕事場D・A・N通信vol.40) コロナで海外旅行は大きく制限された。一般の観光旅行なんて、不要不急の最たるものだから、いつになったら再開できることやら。加えて年齢のことは無視できなくて、わざわざ不便するに決まっている場所に出かけていく気力が、なだらかに下降線だ。決定的なのは、相棒が亡くなってしまったことだ。こ...
2021.08.08 21:04【カフェ・テラスの雀】(仕事場D・A・N通信vol.39) 妻が亡くなって一年になる。あっという間のような気ばかりで、実感はあまりないのが正直なところだ。なぜそうなのか、本当のところは分からない。配偶者の死を受け入れることは大きなストレスだと聞いていたが、そんなこともなかった。亡くなることは、存在や記憶が消えることではない。新たな一日が...