【海外旅行】(仕事場D・A・N通信vol.12)

 趣味といっていいものに旅がある。国内は仕事で出かけることが多いので、趣味の旅となると海外が多くなる。

 五十歳で公務員を辞めてフリーになったとき、経済的には慎重でなければならなかったが、時間の自在性は圧倒的に拡大した。引き続き一家の担い手として仕事に精を出さなければならなかったが、自分でメリハリが付けられるようになった。

 若者のように一切から解き放たれて、飛び出してしまう「深夜特急」のようなことは出来なかったが、それでも自分でスケジュールを組んで世界のあちこちを旅した。その結果、五十代は毎年、二度か三度、夫婦で国外に出かけていた。

 今、コロナで世界中が移動制限下にある。もちろん誰もこんな事になるとは予想していなかった。しかし、世界のあちこちを旅していた時期、私はいつも思っていたことがあった。

 一般市民の自分がヨーロッパ、アメリカと自由に旅が出来ている。でもこれは当然のことなどではない。私の父はパスポートの替わりに銃を持たされ、朝鮮半島から中国に侵攻していった世代だ。敗戦後の日本は特別な人以外、海外になど出て行けることはなかった。一ドル三百六十円の固定レートで、持ち出せる円にも制限があった。「夢のハワイ旅行」は月給の十倍以上もしていたと思う。

 そんな時代から急速に変化してゆく中で、海外旅行が楽しめるようになった。その恩恵をたっぷり受け取って私は旅を重ねてきた。

 そして今、全く思いがけなかった理由で、世界への扉はまた閉ざされてしまった。いつでも行けることなどない。行けるときに行っておかないと、何が起きるか分からない。それは人生と同じだ。いつかやりたいと思っているだけでは、出来る日は来ない。今の可能性は今にしか属していない。それが私達の共通ルールだ。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

0コメント

  • 1000 / 1000