【散骨】(仕事場D・A・N通信vol.1)
嫁ぎ先の墓に入るかどうか。これは今、高齢期を迎えた夫婦、特に奥さん達にはホットな話題だ。近年の我が家の会話にも、これと絡んで散骨のことが登場していた。海、あるいは高原に遺骨を捲いて、身体が自然に還る。それは個人の選択としては良いかもしれない。だが残された家族が故人を偲ぶのに、大自然は大きすぎて寄る辺ない気もしていた。
私は「終活」などさして興味もないが、妻が團家先祖代々の墓には入りたくないと言っていることに無関心というわけにはいかない。お互いまだ元気なつもりでいたから、結論は保留だったが、テーマとしては必然だった。
その妻が、今年(2020)のGWに突然、胃癌ステージⅣの診断を受けた。余命一年の宣告を受け、点滴治療三ヶ月後の8月12日に亡くなった。あっという間の出来事だった。
その看病中、残り時間に限りがあることになって、散骨の話を蒸し返さないわけにはいかなくなった。余命告知されて病床にあり、覚悟もしているとは言え、この話題を持ち出すのを躊躇っていたある日、妻から「お墓のことやけど・・・」と切り出された。
「散骨って、どこでもというわけにはいかんみたいやなぁ」
「指定されたところで、許可を得てそうするらしいよ・・・」
「それでなぁ、あなたが死ぬまで私のお骨を持っといてくれへん?」
「ん? いいけど・・・」
「それで、あなたが死んだら、二人のお骨をどうするかは、子ども達に決めて貰ったら・・・」
「なるほど、それは良いなぁ。子どもらに聞いてみるわ」
「それとなぁ、あなた、再婚はせんといて」
「はぁ、何やそれは? 分かったけど、俺、73歳やぞ」
そんなわけで散骨の話は、遺骨の保管場所問題に移行し、最終は次世代への先送り事項になった。
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