【キース・ジャレット】(仕事場D・A・N通信vol.5)

「ケルン コンサート」というLPレコードを買ったのは、脚本家山田太一のエッセイに登場したからだった。音楽に疎い私は、時々こんな経由で曲と出会う。ジャズがなんだかイマイチ分からないし、これがそうなのかどうかも知らない。だが、この曲にはまった。1975年、ケルンのオペラハウスで行なわれた即興ピアノソロ・コンサートだ。

 2015年3月、「木陰の物語」漫画展をするためにニューヨークにいた。同行者達と食後の散策でカーネギーホールの前を通りかかった。「今夜は何をやっているのかな?」と思ったら、『キース・ジャレット ソロコンサート』ではないか。チケット窓口では、「最後の一枚です!」なんて言っている。

「本当か?」と思ったが、同行者達に断って、躊躇なく買った。とたん、BOX OFFICEの電光表示がSOLD OUTになった。

 最前列、最右端。「なるほど最後の一枚だ」、とは思ったが、振り返って見上げるカーネギーホール客席の様子が何とも素敵だった。

 開演予定時刻はとっくに過ぎているが、演奏者はちっとも登場しない。歳も歳だからコンディションを整えているのだろうと客席のファンは皆、思っているようだ。ブーイングもなく、たまに入るアナウンスを耳に、穏やかにザワザワと客席はキース・ジャレットの登場を待っていた。

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 そういえばこのLPレコード、CDになってからも再度購入したのだった。即興だから楽譜はないが、爆発的な人気曲になった。たしか日本人が採譜して、限定版の楽譜が発売された。それを京都の十字屋楽器店で手に入れた。

 ピアノなんて習ったこともないのに、「これを弾きたい!」と妻に頼んだ。「このままでは難しいから」と、音を少なく簡単にしてくれたのを繰り返し練習した。そして印象的な最初のフレーズだけ弾けるようになった。嬉しかった。今はもう覚えていないけれど。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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