【読みたいと思った理由】(仕事場D・A・N通信vol.4)

[ここで時々、本の話を書くことがあると思うが、書評なんて偉そうなことは言いたくない。読書は面白く読めたら最高だ。どうにも乗り切れなければ止めればよい。買った本は必ず読むなんて誰にも言っていない。手にしたのには読みたいと思った理由がある。それは、本に属するのではなく私に属している。それについてなら書ける気がする。そういう本の話だ]



「セカンドハンドの時代」C.アレクシエーヴィチ著

 ソヴィエト連邦だった時代に、あの国を旅したことがある。初めての海外旅行の緊張に加えて、ソ連だからな!という気持ちのこわばりがあった。持込む本や身の回り品についても、日ソツーリストビューロー(ソ連専門の旅行会社)の添乗員から注意があった。西側の日本から東側の国に足を踏み入れる高揚感もあった。Gパンを履いていって、モスクワで換金すれば高額になると噂されていた。

 新潟から空路ハバロフスク。街の広場にはレーニン像があり、初夏の公園ではダンスを楽しむ地元の人々がいた。モスクワ(赤の広場)では、メーデーの行進を見た。要求のプラカードやシュプレヒコールではなく、春が来たことを喜び合う労働者のお祭り行進だった。サマルカンド(現ウズベキスタンの都市)では同じ国とは思えない風体の男達が、道沿いで平日の昼間、チャイを楽しんでおしゃべりしていた。「労働者の国じゃないのか!」「働けよ!」なんてツアー客同士で話していた。

 1991年、その大国が崩壊した。それは付随するあらゆる制度やルール、立場や権利が霧散することだ。三億人近い人々が暮らしていた国がなくなる。それはいったいどのようなことなのだろう。そこに生き、今は別々になった国に暮らす人々に著者はインタビューをし続け、2013年、大部の一冊にした。

 ノーベル賞作家であるC.アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」はコミックスで読んだが面白かった。「チェルノブイリの祈り」は2019年に現地を訪れ、その後にパラパラ読んだ。

 「セカンドハンドの時代」は2016年発行で現在四刷。岩波書店のこんな分厚い本、誰が読んでるんだ? と思いつつ手にした。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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