【役に立つ方法】(仕事場D・A・N通信vol.6)

 私が仕事で語っていることには、いわゆる専門的裏付けが少ない。これは書いた本に引用文献や参考図書のリストが一切ないことからも分かるだろう。つまり言っていること、書いていること、行なっていること全般がコラムに近いのだ。

 卑下しているわけではないし、思い上がっているわけでもない。先人のデータや答えの出た情報を集めて、自身の安心感や世の中からの評価を手に入れたいと思わないだけだ。

 いわゆる心理臨床専門職と分類される仕事を五十年近くもしてきた。だがこれに関して「資格」と呼ばれるものは何も持たなかった。

 「臨床心理士」の国家資格化を目指して……という時代の流れの中にいて、その動きは承知するが自分は取らない選択をした。20年後の「公認心理師」も同様だった。その結果、国家資格化にまつわる内輪もめとも受験勉強とも無縁だった。

 べつに自分のことを何もかもオリジナルだ等と言いたいわけではない。援助、支援、教育の仕事は面白かったから今も継続中だし、資格などなくても業務遂行に困ることはなかったからこうなっただけの話だ。

 人間の営みについては、何ごとも時と共に前進し、結果が出ると思ってきた。来談者に願いがあるなら、それに添う未来を作り出せるよう、今できることをするのが対人援助である。これだけのことしか考えていない。

 「占いや迷信とは違う、科学なのだ!」と主張するより、「役に立つなら、なんでも良い」と語る方を今も選ぶ。

 さらに、上手くいかなかった時の専門家の言い訳も嫌いだ。来談者、当事者は皆、説明はいいから結果を出してくださいと願っている。合理的な説明をしてくれれば、死んでも良いなどとは思っていない。

 人が怪しげな治療法、時に魔術にまで手を出すのは、良い結果が欲しいからだ。結果を喜んでいる人と同席するのが私は何より嬉しい。正しい方法よりも役に立つ方法がずっとたくさんあることに気づいて、この確信はますます強くなった。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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