【徹夜の一夜漬け】(仕事場D・A・N通信vol.47)

 新書を読んでいて、久しぶりに「一夜漬け」という言葉を目にした。この習慣が学校教育の中間・期末テストへの対策として、皆が身につけたものだという。たしかに日常生活の中で、一夜漬けなんて不誠実な対応をすることは少ない。あっ、食べ物のことじゃないよ。

 私はここ十年余、季刊web雑誌「対人援助学マガジン」の編集長をしている。年四回、執筆者から原稿を受け取り、定期的に発行し続けている。

 これに必ずついてくるオマケが、締切りに遅れる人の話である。原稿は届かないのに、「すみません。少し遅れます」のメッセージは必ず締切り前に届く。メールしているヒマがあったら、原稿を仕上げろってもんだが、これ自体が定番のボケとツッコミに近い。これが世の中にひろく行き渡っている。

 考えたら分かることだが、あと一日待ったら書けるものは、その時までにも書けていた。最後の一日で驚異的なアイデアが浮かぶ事なんてことはない。能力として「書ける人」と「書けない人」の区別はあると思うが、「締切内に書ける人」と、「もう一日ないと書けない人」の区別はない。そんなものは幻だから、ルーツが学校教育下の徹夜、一夜漬けにあるというのは説得力があると思った。

 私は編集長としてかなり厳密に締切りを守って貰っている。締切りを忘れてしまっていた人は書けないが、そうでなければ締切内に書ける。それを浸透させる事ができたら、執筆者がどんなに増えても編集が混乱することはない。

 実際、五十人以上の連載執筆者のあるマガジンの発行が遅れたことはない。無論、間に合わない人の原稿はとばして発行してしまうという荒技もちらつかせてはいるのだが。

 「徹夜したので間に合った・・・」も、「一夜漬けでなんとか凌いだ!」も勘違いだ。最後の頑張りで良いものになったなんて、そう思わないと己のだらしなさが呑み込めない者の寝言だ。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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