【ト】ドクトル ジバゴ(私的埋蔵文化財)

「戦場にかける橋」、「アラビアのロレンス」の監督、デビッド・リーンの昭和51年公開作。大好きな映画だ。たしか大阪のシネラマ上映劇場の大スクリーンで観たのだった。いや、あれは二度目だったかな?

 上映は休憩時間を挟む二部構成。後半の開始は列車がトンネルを抜けると、シベリアの原野が広がる…そんなだったと思う。ロシア帝国が揺らぎ、ソ連になってゆく過程。革命の渦中の人間模様は、舞台のスケールも社会の変動もダイナミックだ。しかし映画の中心は男女の物語。結局、一番普遍的なのはそこだ。

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「ドクトル・ジバゴ」はロシアの小説だが、ソ連では発刊禁止になった。原稿が秘密裏に持ち出され、イタリアの出版社から刊行。ノーベル文学賞を受賞することになるのだが、ソ連は授賞式への出席を認めない。行くなら帰国は認めないというのだ。作者のボリス・パステルナークは受賞を辞退する。

 そんな事態そのものが、東西冷戦構造の中の諜報合戦の一部だったと、ミステリーに仕立てたのが「あの本は読まれているか」。出版された本を使って、CIAが反ソプロパガンダ工作をする。その女性CIA職員の物語。

 とても面白く読んでいる間中、私の頭の中では映画音楽「ラーラのテーマ」が鳴っていた。そして、あらためてデビッド・リーン監督の作り出す映像の一場面一場面の充実度を思った。

 小説を読んでいると、その場面は読者の想像力でいくらでも広げられるなんて言う。しかし実際は、読み手の想像力の限界に常に縛られている。

 映画冒頭の、家路につくアンガラ川の巨大ダム労働者の人ごみの中から、物語の主人公の娘かもしれない女性に接近する軍人。ここに始まる映画各シーンの背景の大きさは、CGなどない時代の大作感を醸し出している。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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