【テ】ディア・ハンター/天国の門(私的埋蔵文化財)
マイケル・チミノ監督の代表作二作品が、「て」のカテゴリーに並んでいた。「ディア・ハンター」でアカデミー作品賞を受けた監督は、3年後、超大作「天国の門」で映画批評家の大不評を買って映画界から一時、消えた。
「ディア・ハンター」(1978)3時間2分、「天国の門」(1980)3時間39分。共に長尺だが、後者の日本公開版は2時間29分。1時間10分も短い映画って、同じ作品と言えるのかどうか。公開当時、比べて観る事などできないから、イマイチよく分からない金のかかった映画だなぁと思っていた。
制作会社ユナイテッド・アーティスツはこれで倒産に追い込まれたのだから、映画産業は博打的要素がなくならない。「ロッキー」のように一発当てた話もたくさんあるが、「天国の門」のようなこともある。近年、マーベル・コミックスの映画化ばかりで稼いでいるのも、安全パイなのだろうから仕方ないのか。
ジェームス・キャメロン監督の世界的大ヒット「タイタニック」だって、制作中は金がかかりすぎだと不評で、映画会社が手を引くとか、別の製作会社が半分持つとかいろいろあった。いよいよになって、監督が自分の報酬も制作費に回したような話も映画雑誌で読んだ。結果的に大ヒット作になり、歩合報酬になった監督も大儲けしたんだったと思う。
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こんなことを書きながら思い出すのは映画が全盛だった昔。二本立て興業が常識だった日本映画とは違い、ロードショウと呼ばれて一本で同じ入場料を取っていた洋画。混雑した映画館は、前の回が終わりかけると通路に立った次回の客が、見終わった客の立つ席を争って、エンドロール中に我先にと侵入していったものだ。まだ入れ替え制にも指定席にもなる前の話。その後、シネコンが登場し、今の方式になり、やがて邦画に圧倒されて封切り洋画の上映の回数は一日一回とか二回のものも少なくない状況に陥った。
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ディア・ハンターの舞台は、トランプ大統領誕生の大票田になったラストベルトと呼ばれる重工業地帯だ。ベトナム戦争が終わった頃から、徐々に斜陽の兆しがあの地域を覆い始めていた。アメリカを東海岸と西海岸だけのイメージで捉えていると大きく誤る。農業国であり工場労働者の国であることが分かっていなかったから私たちは、トランプ大統領誕生に向かっていたなんて想像すらできない異邦人だった。
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