【フ】ブルースが聞こえる(私的埋蔵文化財)

 1988年9月3日、研修を終えて東京「みゆき座」でとメモがある。「BILOXI BLUES」は劇作家ニール・サイモンの自伝的三部作「思い出のブライトンビーチ」、「ビロクシー・ブルース」、「ブロードウェイ・バウンド」の一つだ。「思い出のブライトンビーチ」は日本の舞台を観た。ニール・サイモンはたくさんの作品を映画や芝居で観た。ニール・サイモン自伝「書いては書き直し」、「第二章」も楽しんで読んだ。

 この物語は高校卒業と同時に徴兵された若者が、ビロクシーの訓練所で鬼軍曹にしごかれる話だ。

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 場所は1カ所(訓練所)、登場人物も比較的入れ替わりはない。様々な試練を経て成長をみせるまでに、脱落するものもいる。若者それぞれの過去や現在、そして未来が語られ交錯する。まことに舞台劇設定として好都合な状況の物語である。だからこの手の映画や芝居がほかにもたくさんある。

 私は50歳を過ぎたころ、1年程戯曲作りを勉強していたことがある。そのとき聞かされて納得したのが、物語の場所をどこに設定するかだった。

 よく知った者ばかりではドラマは展開しない。かといって初対面ばかりが集っても盛り上がらない。お互いが過去を断片的に知っている、久しぶりに会う、年齢も様々なシチュエーションと言ったら、葬式か結婚式だと聞かされた。確かにそういう設定が固まると物語は広がり始めた。

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 徴兵絡みでは、最近全く別の興味深い話にふれた。お隣、韓国の兵役義務を扱ったもの。交際中の男女に入隊が近づく。それを二人が話し合う場面があった。「兵役が終わるまで待っていてほしい」という男と、「待てない」という女。つい冷たい女だなとか思ってしまう。しかしこの話がややこしいのは、待てないと言っている女が語ったことだ。

 「待っている」と言い合った男女が、二年の再開後、遅かれ早かれことごとく離別している事実を知っているというのである。待って、待たせて、結局うまくいかなくなる、その2年間の空白は意味がない。だから待てないという。確かに若い世代の2年間は、それぞれを昔のまま置いておかないのだろう。

 そう言われている今から兵役に就く男。軍務や徴兵とは、その国の若者の人生を大きく左右する事態だなぁと想像だけでも思った。まして、その間にウクライナ侵攻を実行されたロシアの若者なんて、たまったものではないだろう。

 80年近くも徴兵などない我が国は幸せだと言うべきなんだろうが、若者の幸福度は世界でも著しく低く、非婚率もどんどん上昇中で、少子化も止まらないという。何が幸せかなど、他人がどうこう言うことではないが、現実世界の構成され方は、いやはや複雑だ。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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