【世界の車窓から パリ】(仕事場D・A・N通信vol.20)

 列車に乗っているのが好きだ。だから長寿ミニTV番組「世界の車窓から」も大好きだ。これがDVD bookになったものが50巻以上発行されたことがあったが、全巻購入した。買っても読まない本や、見ないDVDも少なくない中、これは全部見た。

 「鉄道オタク」中の下位分類をすると「乗り鉄」にあたるのだろう。ヨーロッパ全域の鉄道にけっこう乗車している。だが車窓の風景を眺めているのが好きなのかというと、そうとも言えない。しばしば車中で本を読んでいる。土地にゆかりの一冊のこともあるが、全然関係のないものもある。レール音に身を委ねて、読書しながら一人過ごしているのが幸せなのだ。

 記憶に残る車窓読書というと、パリからノルマンディ海岸の街/ル・アーヴルへの列車が浮かぶ。この時読んでいたのは「黒い睡蓮」。ミシェル・ビュッシ著のフランスのミステリーだ。小説に登場する、画家モネの終の棲家のあるジヴェル二ーはこの沿線にある村だ。

 この路線はパリ(サン・ラザール駅)を出発すると、ずっと海までセーヌ川沿いを走る。二週間のパリ滞在中の一日散歩にル・アーヴルを選んだのは、映画「ル・アーヴルの靴磨き」(アキ・カウリスマキ監督作品)を思い出したからだった。

 ガイドブックは「パリ市内」のものしか持たなかったので、街の情報はほぼ何もなかった。グーグルマップで「マルロー美術館」が見つかったのでそこを目指すことにした。駅前からすぐタクシーに乗って着いたら休館日だった。仕方ないのでフラフラと街を散策した。その結果、美味しいランチに出くわし、戦災後の復興都市モニュメントの教会にもたどり着いた。

 しかし何より、往復のセーヌ川沿いのフランス田園風景が魅力的だった。読書にふけっていると、見知らぬ街に到着し、また静かに出発していく。「あっ、ここがルーアンなのか、途中下車すればよかったかな」、などと思いながら車窓を見ているのがたまらなく良いのだ。

(写真はル・アーヴルの教会)

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家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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