【おひとり様】(仕事場D・A・N通信vol.46)

 いつ頃から目にすることが多くなった言葉だろう。一人暮らしは新たに誕生したわけではない。「おひとり様」と称することで、一人暮らしは侘しい、寂しいと決めつけられるのに対抗したのだろう。

 結婚していれば孤独じゃないとか、子どもを産んでいれば幸せという押しつけにウンザリさせられてきたからだろうか。実際そんなことはないのは誰もが知っていることだ。独身の人に対するときだけ、そんな嘘や優越感をぶつけてきた世間があったのだろう。

 まともな人なら、誰かと一緒だからこその孤独とか、集団の中にいることからくる疎外感くらい考えられる。そんなことも想像できない人達の使う言葉礫(つぶて)に対抗したのだといわれたら、そうかとは思う。

 去年の夏、妻が亡くなって一人暮らしになった。当然、それまでの暮らしとは違ったことがいくつもある。ではそれ以前、何も変わらない生活が続いていたのかといえば、そんな事はない。子どもが学校、就職などで家を出たり、同居していた両親が亡くなったり、妻が健康を害したりした時、それぞれ変化は起きていた。その一つとして、私の一人暮らしが始まったのが昨年夏以降というわけだ。もっとも、こういうのはおひとり様とは言わないのかもしれないが。

 ベビーブームに生まれ、両親に育てられ、自立するようになり、配偶者と暮らし、子ども達を育ててきた。これらは意思決定の結果のようでいて、人生は概ねそんなものであるところから逃れていない。そうなんだから、それでいいじゃないかと思ってきた。だから「おひとり様」のような言葉による切り取りや、それに付随する意識の作り方には違和感がある。

 振り返ってみると私達は、まぁよくもこんなにと思うほど「流行語大将」である。次から次へと大衆を魅了するコピーを作り出し、自分を表す言葉をでっち上げて皆で囃して、そして忘れる。それで慰められる人がいるのなら良いじゃないかと言われると、なんだかなぁとは思うが、それが悪いと言いたいのではない。そういう流行歌に聞こえているだけのことだ。

士郎さん.com

家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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