【し】ジャンプ(私的埋蔵文化財)
ここに来て唸ってしまった「シ」。一本、一作品が選べない。「ジュリア」は戯曲作家リリアン・ヘルマンの自伝的作品をジェーン・フォンダ、バネッサ・レッドグレーブで映画化したものだ。フレッド・ジンネマン監督の重厚な映像は、観た後もDVDを是非欲しいと思わせた。
就職して初めての職場の女性同僚が、業務中に交通事故で亡くなった。葬儀の準備中、彼女が注文していた本が届いた。「眠れない時代」リリアン・ヘルマン著、アメリカの赤狩り時期の体験を描いたものだった。
「ジプシーは空に消える」。情報は全くなく観た映画だったが音楽に引き込まれてしまった。ジプシー(今はロマ)音楽の旋律に酔いしれて、サウンドトラック盤のレコードを探し歩いた。マイナー極まりないものだけに、発売されている情報はあっても、現物にはなかなか出会えず、梅田のワルツ堂だったかでやっと見つけて買ったのだった。ずっと後にDVDになっているのを見つけて映画も購入した。けっこう高かった記憶がある。
「シテール島への船出」。テオ・アンゲロプロス監督作品は、当時の映画好きなら必見だと聞かされて観た。「旅芸人の記録」、「アレキサンダー大王」、「こうのとり、たちずさんで」、「霧の中の風景」など。ギリシャ映画の巨匠だ。全作品の字幕を作家・池澤夏樹(福永武彦の息子)が担当しているのが驚きだった。
「史上最大の作戦」。1962年制作のハリウッド大作。とにかく当時の主演級俳優がズラッと登場するノルマンディー上陸作戦の映画。ミッチ・ミラー男性合唱団のテーマソング、♫ザ・ロンゲスト・デイ♪は誰もが口ずさんだ。
「地獄の黙示録」。F.コッポラ監督の問題作で、撮影中からとにかく話題だった。関わる映画人がみな狂気に犯されているような気がした。完成できないのではないかと危ぶまれた経過を妻が撮ったドキュメンタリーも不思議だった。でも作品としてはそれほど感銘を受けるモノではなかった。
***
これら名作を飛び越えて、選んだのは「ジャンプ」。地人会公演の芝居、山田太一作である。
パンフレットに川本三郎が書いている三頁の文章があるのだが、これが素晴らしい。たくさんの映画パンフレットに氏が解説を書いているのを目にするが、それがことごとく素晴らしい。そういえば一度、何かのお礼にと本を送っていただいた事があった。どんないきさつだったのかその時も戸惑った記憶しかない。そうそう、川本さんも奥さんを亡くされたが、元気に一人暮らしをされているようだ。
山田太一作品は我々の時代の人間は皆、TVドラマでたくさん観てきた。「新しく山田太一ドラマが始まるぞ!いやいや今期は倉本聰だ!向田邦子ドラマだ!」と贅沢な物語世界にいた。
中でも山田太一は一貫して家族を描いてきた。倉本聰の取上げるちょいといなせな、癖あり庶民ではなく、向田邦子の情念まき散らしの女物語でもない。一番普通そうなのに、普通が一番怖いみたいなドラマばっかり見せてくれた。
私は今、「木陰の物語」を描き続けているが、その根底には山田太一ドラマがある。あの深さにはとても行き着けないがそれでも、見えているモノだけではない家族が描けているといいが・・・とはいつも思っている。
0コメント