【ニ】日本人のへそ(私的埋蔵文化財)

「日本人のへそ」は井上ひさしの芝居である。彼の劇団「こまつ座」が上演したが、観た記憶がない。困ったものだ。たしか何度か再演もされていて、BSで舞台放映もしていたはずだから覚えていて当然なのだが覚えていない。ひょっとするとこのパンフは「the座」というこまつ座発行の雑誌でもあるので、芝居は見ていなくて、季刊誌として買った可能性もある。

 井上ひさしは多くの小説を書き、こまつ座の主宰兼座付き作者として、多くの芝居を上演した。氏の座右の銘は「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを愉快に」。まったくその通りで、私もそうありたいと常々肝に銘じている。

 氏は後年、私生活の夫婦問題スキャンダルで世間を騒がせた。そのやり取りをワイドショーで見せられていて、男目線かもしれないが気の毒な気がした。世の関心はもっぱら夫婦間のDV、元妻の暴露話で、氏の業績を貶めているような気がした。一生をある評判のまま貫き通すのは難しいのかなぁと思った。

 この頃以降、SNSの発達や世の中の関心の切り取り方によって、世間はスキャンダルの方だけを記憶するようになった。それは仕方のないことで、井上ひさしの本一冊、芝居一本観たことがない人も、ニュースショーの醜聞は見聞きするのである。それで初めて認知されたり、有名になったりする人もいたりして、あえてそうする「炎上商法」の輩もいるらしい。

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 それはさておき、このパンフレットの執筆者ラインナップ、かなり豪華である。平田満、石田えり、すまけい、妹尾河童、水の江瀧子など、あの時代のそうそうたる才人たちが名を連ねている。井上ひさし人脈だと思うが、子ども・若者文化ではなく、かといって古典でもない大人のサブカルチャーとして練られた作品がたくさん生まれた時代のように思う。

 SNS時代はスピード感と分かりやすく短いものが全盛である。それもいいのだが、ポップカルチャーの華は一本かぶりではなく、多彩にひらく世界であってほしいものだ。

(ポップカルチャーとサブカルチャーという言葉を、あいまいに混用しています)

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家族心理臨床家で漫画家でもある団士郎さんに関する情報をまとめたオフィシャルページ。本ページは、本人の了承を得てアソブロック株式会社が運営しています。

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